マスコミが報じない防犯カメラの“弱点”。富田林署容疑者逃走事件から日本人が学ぶべきこと

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事件だの自然災害だのが、あまり続けざまに起きますと、2、3か月前のことでも忘れがち。大阪の富田林署から容疑者が逃走した事件も、あれだけ大騒ぎしてたのに、みなさんもう忘れかけてるんじゃないですか。

 

でもあの事件は、忘れてしまうには惜しい教材です。世間のみなさんが、いかに犯罪と犯罪者の実態に無知であるかを教えてくれたからです。そのなかから重要な点をふたつばかり指摘しておきましょう。

 

 

■「急にムラムラして強姦」はありえない

 

まずひとつめは、「強姦犯を甘く見すぎていること」。世間だけでなく警察もだから困ったもんです。報道では容疑者の罪状のひとつが強制性交とされていて、なんだろうと思ったかもしれません。これは刑法が改正され、以前の強姦罪がよりきびしくなって名前を変えたものです。本記事は改正前の犯罪学研究書や論文を参考にしてるので、以前のまま強姦としておきます。

 

警察庁の定義では、強姦は、殺人・強盗・放火と並ぶ四大凶悪犯罪とされてます。なのに警察署員にその認識がなかったから、凶悪犯から目を離して逃げられてしまったわけです。この数か月前に愛媛でも脱走事件がありましたが、あっちは危険度の低い“こそ泥”です。富田林署の凶悪犯と一緒にしちゃいけません。

 

むろん強姦自体が卑劣な犯罪なのですが、強姦犯には、犯罪体質が非常に強い傾向が見られるのが問題です。強姦は、急にムラムラして、勢いや出来心でなされると思ったら大まちがい。犯罪学の研究者によって、ほとんどの強姦は計画的であり、常習性も非常に高い、極めて悪質な犯罪であることが明らかにされてます。さらに、強姦犯の多くは強姦だけでなく、それ以外の犯罪もやっていることが多いとの研究報告もあります。

 

要するに、強姦をする人間は、根っからの犯罪体質である可能性が高いのです。良心の呵責を感じずに、どんな犯罪も計画・実行できる人間。順法意識が低いのだから、隙あらば逃げようとするでしょう。今回の容疑者は、窃盗や万引きなどを繰り返しながら、悪びれる様子もなく逃走を続けたのだから、まさにこれに当てはまります。

 

いや、悪びれるどころか、堂々と顔を出して、自転車旅行中のふりをしていたという報道に、だれもが驚き呆れました。罪悪感のある人間なら、罪を犯せばどうしても挙動不審になってしまうものですが、堂々と善良な市民のふりができるというのも、犯罪体質のなせるわざ。

 

 

■防犯カメラは役立たず

 

この事件から学べるもうひとつの重要な点は、「防犯カメラは期待するほど効果がない」という事実です。

 

容疑者は逃走中、何十台もの防犯カメラに映ってました。万引きをしてる姿もとらえられてます。県庁の窓口でポスター印刷の相談までしてたそうです。県庁には当然、防犯カメラがあります。なのに、だれひとりとして防犯カメラ映像から容疑者を特定できませんでした。

 

善良にして犯罪に無知な市民のみなさんは、防犯カメラがあれば犯罪者は犯行を思いとどまるはずだ、と信じてらっしゃいます。しかし現実の犯罪者はそんなに甘くありません。防犯カメラに映ることをあまり気にしないのです。カメラに撮られる前提で変装をしたりして犯行に及ぶケースも多々あります。

 

防犯カメラを設置した直後には、たしかに犯罪低下などの効果が出ることが多いんです。ところが設置してしばらくすると効果が薄れ、犯罪がV字回復することもあるという事実は、あまり知られてません。

 

 

■防犯カメラで犯罪が増える?

 

イギリスのロンドンは、1990年代から多額の予算を投じて、積極的に街頭や公共施設に防犯カメラを設置してきました。それによって犯罪が激減したと伝えられると、日本を含めた先進国は、こぞって防犯カメラを導入してきたのです。

 

でも英シェフィールド大学のノリス教授らは以前から、防犯カメラが犯罪を減らしたという数字に科学的根拠がないことを指摘して、過剰な期待を戒めてました。教授の調査によると94年に比べて2004年の犯罪率は下がってなかったし、カメラが設置されている街頭での強盗や性的暴行はむしろ増えていたそうです。

 

教授の懸念は現実のものとなりました。防犯カメラ先進都市だったはずのロンドンは近年、殺人件数や若者による犯罪の急増により、2017年、ニューヨークを上回る犯罪多発都市になってしまったのです。この悪いニュースを日本のメディアはあまり報じていないので、日本人はいまだに防犯カメラに絶大な信頼を寄せたまま。

 

まあでも、今回の容疑者逃走事件では、いいニュースもひとつありました。まだまだ日本には、通りすがりの旅行者に対しても親切な人が多いのだとわかったじゃないですか。そんな人たちの善意を利用して逃走を続けてた容疑者は、やっぱり悪いヤツですよ。

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パオロ・マッツァリーノ

日本文化史研究家

パオロ・マッツァリーノ

イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。 公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。 著書に『反社会学講座』『誰も調べなかった日本文化史』(いずれもちくま文...

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