有名企業から居酒屋アルバイトへ…上司のパワハラで「生きづらさ」をわずらった42歳の闇

人間関係

 

40代独身、アルバイトでひとり暮らし、貯金なし、恋人なし。そんな男性は今の世の中、少なくない。彼らは何を考えているのか、そしてこの先どうするのだろうか。

 

 

■20年前はよかった……

 

サトルさん(42歳)は、ときどき20年前を思い出す。就職氷河期だったのに有名企業に就職が決まり、晴れがましい気持ちと、社会に出ていく期待でワクワクしていたあの頃。

 

「でも5年後、自分への期待を自分で裏切ってしまったんです」

 

それは人間関係の躓きだった。誰とでもうまくやっていける社交的なサトルさんが、陰湿な上司とどうしても合わず、満員電車に乗れなくなった。

 

「病院に行ってパニック障害と診断されました。診断書を会社に提出して休職することになったんですが、最後に上司に『戻るところなんかあると思うなよ。おまえは負けたんだ』と言われて。その言葉が頭から離れず、休職からそのまま退職するしかありませんでした」

 

パワーハラスメントという言葉がまだ浸透していなかった時代である。サトルさん自身、自分がどうしてこんなに弱いのかと自分を責めた。

 

実家に帰ろうかと思ったが、有名企業に就職してバリバリ働いていると信じている両親を悲しませたくなかった。

 

「学生時代の友だちにも会えない。今まで自分は虚勢を張って生きてきただけだったのか。それまでのすべてを否定するようになっていきました」

 

 

■今の自分を認めるしかない

 

働かなければ食べていけない。ほどなく彼は安いアパートに引っ越し、治療を続けながら近くの居酒屋でアルバイトを始めた。居酒屋にしたのはまかないがあるからだ。それが彼の1日の食事のすべてだった。

 

「本当に偶然なんですが、その居酒屋に学生時代の友だちが来たんです。彼も有名企業に就職したはず。僕はなんとなく彼を避けていたんですが、彼のほうから『オレ、会社やめたんだよ。闘い疲れてさ』と耳打ちしてきて。それから彼とは連絡をとるようになりました」

 

一時期はひきこもっていたその友人だが、周りの助けもあって徐々に外に出られるようになったのだそう。

 

「彼と再会したことで、いろいろなセミナーや会合に出るようになりました。生きづらさを抱えた人たちはたくさんいる。みんな大変なんだと思う」

 

今もパニック障害の症状が出ることはあるが、少しずつ病気とのつきあい方もわかってきた。

 

「居酒屋のオーナーがいい人で、病気のこともわかった上で雇ってくれています。ひとりで暮らしていけるくらいの給料ももらっている。その一方で、そういう生きづらさを抱えた人たちの会にもときどき出て自分の経験を話したりもしています。明日のこともわからないし不安はあるけど、今を生きるしかないんだと思えるようにはなってきました」

 

まだ、20年前を思い出すことはある。あのときもう少しがんばっていればという後悔もあると彼は言う。だが、あのときがんばりすぎていたら、彼はここにはいなかったかもしれない。

 

自分を見つめ、分析し続けた人には深い洞察力がある。彼もそうだ。そして彼の人生は、まだまだこれからだと心から思う。

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ノンフィクションライター

亀山早苗

明治大学文学部演劇学専攻卒業後(専攻は歌舞伎)、雑誌のフリーランスライターに。 ライター歴、もうじき30年。離婚歴1回の現在独身。長い間、男女関係に興味を持ち続け、さまざまな立場の男女に取材を重ねてきまし...

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