ゴミ置き場で“民度”を測る記事の違和感──ゴミの出し方で住民のモラルなどわからない

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引っ越しや部屋探しを指南するサイトに、「街の民度は、ゴミ集積所に表れる」「ゴミ置場を見れば、アパート居住者の民度がわかる」と題した記事が散見される。ゴミ置場やゴミ集積所が汚いのは居住者が「ルールを守らない」「モラルが低い」ので避けたほうが良いということだ。

 

確かにゴミ置場は部屋探しの重要なチェックポイントの一つになるが、これらの記事には、2つの視点から違和感ある。1つは、“民度”という表現だ。引っ越し先を選ぶにあたって、アパートや賃貸マンションという物件単位、あるいは何丁目何番地くらいの狭い範囲でくくられる町内に、“民度”を当てはめるのが馴染むのかという点。2つ目は、居住者のレベル次第でそのアパートを選ばない、その街に住まない、という判断が正しいのかどうか。

 

 

■ネットでの誤用も多い「民度」のルーツ

 

まず第1の“民度”については、ネットにおける誤用が多い。Yahoo!知恵袋で、「“民度”というコトバはほとんど差別用語みたいな使われ方をしていますが、どう思いますか?」という質問に対して、「日本に無い言葉です。〇△人(特定の民族)が日本人を見下す時に彼等が使います」という回答がベストアンサーに選ばれていた。口あんぐりである。

 

“民度”という用語のルーツは、明治時代の初期にさかのぼる。西洋近代から学んだ進歩的な法令や制度を導入するにあたって「文明開化の程度」、つまり国民の知識・文化・生活のレベルに合わせて行うことが必要だと、政治家や官僚たちが議論。明治中期頃から、新聞記事や公文書に「国民・人民の程度」を略した“民度”が登場し始めた。つまり“民度”は純粋な日本語として誕生したのである。

 

その成り立ちからわかるように、“民度”の判断は、もともと国や県レベルの広い範囲を対象にしている。町内レベルで“街の民度”という表現はそぐわない。しかも、温度のような具体的な数値に基づいた指標ではなく、地域社会における人民の知識と文化、生活水準、政治意識、道徳観などの多様な要素が含まれる抽象的なモノサシだ。他の国や地域について一方的に批判するときに“民度”を使う場合、「~度」という客観的な装いでありながら、実は単なる印象批評でしかない例がほとんどだろう。

 

 

■実は判断しづらい? 居住者の質

 

第2の疑問は、街選び、部屋探しの視点だ。ゴミ集積所に、分別されていなかったり、収集日以外にゴミが乱雑に放置されていたら、「ルールを守らない住民がいる」のは事実だろう。しかし、実行したのは限られた人かもしれない。それで町内の住民全体のレベルが低いと断じられるのか。

 

他所から捨てに来る不届き者もいるし、戸別収集に切り替えている地域もある。いくらゴミ集積所がきれいでも、分別ルールが厳格すぎて町内でゴミの見張り合いが起り、新旧住民が対立する街もあるようだ。それでモラルが高い住民といえるのか。街選びでは、スタンダードに利便性・治安・防災性などを優先したほうが賢明に思える。

 

アパートのゴミ置場がきれいか汚いかで居住者のレベルを判断するのは、もっと無理がある。アパートの入居期間は平均2~4年しかない。出身地や育った環境が違い、生活習慣や倫理観の異なる人が、数年、数ヶ月単位で入れ替わる。居住者のレベルは常に均質ではないし、流動的なのである。

 

そもそもゴミの出し方が少しくらい悪いからといって、モラルが低いとは決めつけられない。自治体によって資源ごみの分別方法はまるで違う。初めての一人暮らしで地方から都会に出てきて、情報が乏しく、慣れない生活に戸惑っている人も多いだろう。実家がゴミステーションのある分譲マンションなら、収集日に限らず、いつゴミを出しても良かったかもしれない。

 

仮にモラルの低い居住者が1人いて、ゴミ出しルールを守らなかったとしても、その人が短期間で退去してしまえば問題ない。逆に、たまたま見学したときにゴミ置場がきれいだからと入居を決めた後に、別の部屋にマナーの悪い人が引っ越してきたら、ゴミ置場は汚くなるかもしれない。ゴミ置場をチェックするのは意味がないのか。

 

 

■ゴミ置場をチェックすべき「本当の目的」

 

いや、ゴミ置場は部屋探しのチェックポイントになると最初に指摘した通りだ。ただし、居住者のレベルを判断するためではなく、賃貸運営の意思決定をする“大家の意識”と、実際のオペレーションをする“管理会社の実力”を見極めるのが目的である。大家の意識が高く、アパートが適切に管理運営されていれば、住み心地の良さが保たれるからだ。

 

現在のアパート大家は、2種類に大別できる。建てれば埋まる住宅不足の時代からアパートを引き継ぎ、「部屋を貸してやる」という意識が抜けない昔ながらの大家。そして、アパート経営をサービス業と受け止め、「お客様に入居していただく」という姿勢で入居者満足度の向上に努めているビジネス感覚を持つ大家だ。

 

昔ながらの大家は、居住者の不満には鈍感になりがち。維持管理の経費をかけたがらないため、手入れが行き届かず、クレーム対応も遅れる傾向がある。その上、空室が多ければ家賃収入もじり貧なので、ますます経費が使えないという負のスパイラルに入っていることも少なくない。たとえマナーの悪い居住者がいなくても、良好な居住環境は期待できない。

 

一方、ビジネス感覚大家であれば、たとえ1人や2人のマナー違反があっても、ゴミ置場が汚いまま放置しておくことはないはず。入居者にはできるだけ長く住んでもらい稼働率を高めたいので、居住環境を良好に保つことを重視しているからだ。生活ルールをきちんと告知し、トラブルを未然に防ぐと共に、一定の経費をかけて清掃をマメに行う。ゴミがむき出しにならないように、鍵の付いたゴミ収納庫を置いているケースも多い。

 

アパートの良し悪しをチェックするポイントとしては、次の3つが挙げられる。

 

(1)ゴミ置場

(2)エントランス(集合ポスト)

(3)駐輪場

 

たとえば、集合ポスト周りには、チラシ禁止サインを出し、不要チラシ専用ゴミ箱を置いてあるか。駐輪場は適切なスペースを取って整理整頓されているかなどなど。防犯を兼ねて共用部分の状況を遠隔監視できるカメラを設置しているケースもある。つまり、何か問題があればすぐに対処できる体制を取っているわけだ。

 

これら共用部分3点セットは、現地見学の時に第一印象を左右する“物件の顔”でもある。顔のケアを怠らない大家なら、身体全体の身だしなみ、つまり建物や設備のメンテナンスにも気を配るだろう。物件の顔を見れば、居住者に対する大家の“サービス感度”の高さがわかるのである。

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木村元紀

住宅ライター

木村元紀

1963年東京生まれ。編集制作会社、出版社を経て、1989年からフリーランス。不動産・住宅関係を中心に、室内環境問題、モノづくり関連分野などについて、不動産専門誌、一般雑誌、ウェブコンテンツ等に企画・編集・執...

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