余計なお世話! 西野カナの活動休止報道で「妊娠?」「結婚?」と無神経に反応する人々

ライフスタイル

三浦ゆえ

出典:西野カナ公式HP

2019年がはじまったばかりというのに、芸能界、スポーツ界では引退、活動休止のニュースが相次いでいます。若い世代にとっては、人気アーティストの西野カナさんの突然の活動休止は、驚きを持って受け取られたようです。

 

ファンのなかには惜しむ声もあれば、新しい門出として応援する声もあり。けれど報道側の関心は別のところにあるようで、活動を休止する本当の理由は妊娠にあるのではないかという報道がありました。

 

昨年末のNHK「紅白歌合戦」に出演した際、少しふっくらしたように見えたというのがその根拠のようですが、女性がちょっと太るたびに「妊娠したのでは」と反応する人の生活は、とても大変そうです。

 

 

■男性が辞めるとき「結婚するの?」と訊きますか?

 

この現象には、ふたつの問題が表れていると思います。ひとつは、女性が働くということに対する意識の問題です。

 

ここで少し個人的なお話をします。筆者がかつて勤めていた会社を辞めることになったとき、複数人から「コトブキ?」と訊かれました。実際は転職先が決まっていたのですが、そのことはおおっぴらにはいえなかったので、ごく一部の人を除いて「辞める」とだけしか伝えていませんでした。「辞める=結婚」は筆者にとって飛躍ともいえる発想でした。男性が転職することを伝えずに会社を辞めるとして、「結婚するの?」と訊かれることはまずないでしょう。

 

独身である元稀勢の里関の引退に際し、「結婚か」「パパになるのでは」といった声は私が知るかぎりでは上がっておらず、明らかに非対称的です。彼は今後親方になる、つまり“転職先”を明らかにしたうえで辞したわけですが、それがなくともそんなことはいわれないでしょう。

 

同じアスリートでは、吉田沙保里さんの引退を採り上げた情報番組で女性タレントが「次は結婚と出産ですね」といったコメントをしました。吉田さんが会見で「女性としての幸せを絶対につかみたい」と発言したのを受けてのことですが、結婚出産が女性の幸せ、しかも現役を退いてはじめて可能になるとも受け取れる発言を聞くと、このタレントさんは価値観をアップデートできない人なのだなとかえって気の毒になります。

 

妻が専業主婦という世帯の数を共働き世帯の数が上回ったのは、2000年ごろ。以降、その差は開きつづけ、現在、共働き世帯は1188万に上っています(※1)。仕事を辞める(引退する)=結婚、という意識は若い世代になるほど薄れているでしょう。また、出産を機に仕事を辞める女性は年間20万人(※2)といわれていますが、一方で18歳未満の子どもを育てながら仕事に就いている女性、つまりワーキングマザーの数は年々増え、7割前後になっているという調査結果(※3)もあります。

 

子どもをもうけるとしたら、人気歌手にも超人的アスリートにも一般社会でいうところの産休、育休的なものが必要です。ですから現役を退く/休む→時間ができる→産休、育休に相当すると考える人たちがいるのでしょう。近年は妊活のために休業する女性タレントも増えています。

 

が、女性にはそれ以外にも仕事を休む・辞める理由がたくさんあります。西野さんは休業に際して公式HPで「旅行が好きなので、行きたい場所もまだまだありますし、やってみたいこともたくさんあります」と発表しています。30歳という節目の年を迎えるにあたって、さらに人生を楽しみたいという前向きな想いが伝わってきます。

 

その“やってみたいこと”のなかに、出産が含まれているという可能性はなきにしもあらずです。けれど、それはとてもプライベートなこと。公表しなければならない義理も義務もありません。

 

これが、ふたつめの問題です。本人が何もいっていないのに妊娠・出産という極めてプライベートかつデリケートなことを報道するのがいかに無神経なことか。

 

 

■安藤美姫を襲った「集団ヒステリー」

 

ここで思い出したのが、元フィギュアスケート選手で現在はタレントとして活動している安藤美姫さんです。2013年、出産していたことをテレビ番組のインタビューで明かしました。当時は現役の選手であったこと、未婚で生んだこと、子どもの父親について一切の情報を明かさなかったことで、一気に世間の耳目を集め、報道が過熱しました。

 

本人が明かさないと判断した情報、しかも明かされれば当事者たちにマイナスの影響を及ぼしかねない情報を、洗いざらい話せ、なぜ隠すんだ、と迫る様相は集団ヒステリーといってもいいほど異様で、筆者は当時、恐怖を感じました。

 

報道関係者のなかでは「引退・休業=妊娠、出産」という図式があるため、まさか現役選手の出産はあるまいとノーチェックだったのでしょうか。だから「裏をかかれた」「騙された」と怒りを感じたのでしょうか。

 

もし仮に、安藤さんが妊娠中にその事実を公表したとしても、父親探しで大騒ぎになることは目に見えています。お腹に子どもがいる大事な時期に、計り知れないストレスを抱えるわけにはいきません。出産してから事実を明かしたのは賢明だったといえるでしょう。

 

有名税という言葉がありますが、それでも踏み込んではいけない領域があり、妊娠出産はその最たるもののひとつ。憶測で話題にしていいこととは思えません。ましてその根拠が「休業する」「ふっくらした」程度であれば、ただの“余計なお世話”でしかないのです。

 

※1:内閣府「平成30年版 男女共同参画白書」

※2:国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査 」

※3:厚生労働省「平成 29年 国民生活基礎調査の概況」

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三浦ゆえ

フリー編集&ライター。富山県出身。複数の出版社に勤務し、2009年にフリーに転身。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズをはじめ、『失職女子。~...

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