「二世信者」として育てられた女性が語ったあの頃…「異常だったけれど母のことを否定するつもりはない」――衝撃作『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』著者インタビュー

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「とある宗教」に傾倒する母親との日々を、「二世信者」である娘の視点から描いた実録マンガ『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(いしいさや/講談社)。100%実話として描かれた本作の内容は、実に衝撃的だ。

 

世間の子たちと同じようにオシャレすることも恋をすることも禁じられ、毎週、「聖書の教えを勉強する」集会や「奉仕」と呼ばれる布教活動に駆り出される。そこには選択の自由などない。物語の主人公、そして著者であるいしいさやさんの幼少期は、きっと想像がつかないほど苦しいものだっただろう。本作を描こうと思ったきっかけから、幼少期のエピソード、そして今後の展望までをご本人に広く伺った。

 

 

■マンガ家としてのデビューは予想外の出来事だった


いしいさんは、本作でデビューしたばかりの新人マンガ家だ。しかし、本人にとってデビューの話は予想外の出来事だったという。きっかけとなったのは、Twitterへの投稿。本作第1話の原案となるわずか8ページの作品をアップしたところ、瞬く間に拡散され話題になったのだ。

 

「作品をアップしたら、どんどんリツイートされていったんです。当時、フォロワー数は400人程度だったんですけど、いいねやリツイート数が100を超えたあたりからドキドキしてしまいました(笑)。朝まで通知が鳴り止まなくて、このままどうなるんだろうって……。リプライやDMもたくさんいただいたんですが、否定的な意見はほとんどありませんでした。特にDMでは似たような体験をした人からのメッセージが多くて、『みんな同じように苦しんでたんだ』とツラい気持ちになってしまいましたね」(いしいさん、以下同)

いしいさんの投稿は、最終的に3.5万リツイートまで伸びた。それがきっかけとなり、出版社から連載の話をもらったという。そこからいしいさんのマンガ家としての人生がスタートした。しかし、当の本人はそんな状況をいまだ信じられないでいる。

 

「子どもの頃から絵を描くことは好きでしたし、マンガ家に憧れもあったんです。でも、自分には無理だと思っていて。Twitterへの投稿作を描いたのも、マンガ家になるためではなく、自分の過去と向き合って自身の傷を癒すため。認知行動療法のひとつなのですが、過去を客観視して絵や文章で表現することは非常に意味があるらしいんです」

自分のために描いた作品だったからこそ、よりリアルで具体的な内容となった。それが傷を癒すことにつながるからだ。とはいえ、過去と向き合うのは相当ツラかったのではないだろうか。

 

「描いていて最も苦しかったのは、『鞭打ち』のシーンです。特に、他の子が打たれているシーンを描くのはしんどくて……」

いしいさんの母親が信じている宗教では、聖書に反する行動をとった子どもに対し、「鞭で打つ」という教育を施す。そして、ここでいう鞭とは、ベルトやゴルフのグリップなどだ。それらを用いて、子どものお尻を打つのである。

 

(C)いしいさや/講談社

(C)いしいさや/講談社

 また、この体罰以外にも異常性を感じさせるエピソードがある。それが「禁止事項の多さ」だ。

 

「主に言われているのが、偶像崇拝、輸血、婚前交渉の禁止です。偶像崇拝にはアイドルやスポーツ選手も含まれているので、音楽番組でアイドルの歌っている姿を観るなんてもってのほか。そういった番組は、一切観させてもらえませんでした。また、他人との争いも禁止されているので、運動会での応援合戦や騎馬戦なんかに参加するのもNGでしたね。そうそう、国家や校歌も偶像崇拝に定義されてしまうので、行事でそれらを斉唱することも禁じられていました」

 

(C)いしいさや/講談社

(C)いしいさや/講談社

思春期にも関わらず、アイドルや恋愛の話ができない。学校行事では悪目立ちをする。ともすれば、それがいじめのトリガーにもなるだろう。

 

「私は運が良くて、いじめられたことはなかったんです。ただ、同級生からの『触れちゃいけない』という目線は感じていました。それに、私自身も宗教のことを聞かれたくなくて、壁を作っていたんです」

 

■「宗教」の片鱗はいまだに残っているが……

 

本作でも描かれているが、母親の宗教に縛られているいしいさんの救いとなったのが、祖父の存在だった。「集会」の日に彼女を遊びに連れ出すなど、なにかと気にかけてくれたのだ。

 

(C)いしいさや/講談社

 (C)いしいさや/講談社

 「父も無宗教派だったんですが、母のすることにノータッチだったんです。だからこそ、助け出そうとしてくれた祖父には感謝の気持ちでいっぱいですね。唯一の心残りは、祖父のお葬式のときに、宗教上の理由でお焼香ができなかったこと。ちゃんと見送ることができなかったんです……」

愛する祖父のお葬式で、お焼香をしてあげられない。こういった異常な状況が一つひとつ積み重なり、いしいさんに大きな決断をさせた。それが宗教からの離脱だ。そして、大人になったいしいさんは過去のトラウマに苦しめられながらも、自分の人生をゆっくりと歩み始めている。

 

「大変なことも多かったですし、当時のことはやっぱり異常だったと思いますけど、それでも母のことを否定するつもりはないんです。宗教を信じることで、母自身はとても幸せそうでした」

ともに信仰すること。それは母親としての愛情の一種だったのだろう。子どもの幸せを願い、厳しい教えにも耐え、ときには罰を与える。そんな母親のことを理解していたからこそ、いしいさんもギリギリまで耐え抜いたのだ。

 

「だけど、選択の余地がない子どもには、なにか逃げ道のようなものが必要だと思うんです。信仰を迫られている子どもって、『誰に言ってもわかってもらえないだろう』と不満や苦しさを抱え込んじゃう。それがなによりもツラいんです。だから、本作を通じて、『同じ思いをした人がいる』『自分はひとりじゃない』ということを感じてもらいたいと思っています」

 現在、駆け出しのマンガ家として、そしてごく普通のひとりの女性として人生を楽しんでいるいしいさん。母親との関係も良好でなにも心配はなさそうだが、やはり時折、宗教に苦しめられていた頃の片鱗が顔を覗かせるという。

 

「異性との交際を固く禁じられていたので、いまだに恋愛の楽しみ方がわからないんです。デートに誘われても、外に遊びに行くこと自体が怖くて。結局、それでうまくいかなくなってしまうことも多いんです。宗教の影響なんでしょうね……。だけど、自分の中にまだその片鱗が残っていると気づくことで、少しずつ変えていけるはず。だから、きっと将来的には恋愛も楽しめるようになっていると思います」

 

 そう、いしいさんはまだ宗教に縛られていた頃の自分と戦っているのだ。その戦いは、「マンガにして表現していく」という手法で続いていくのだろう。本作は続刊も予定している。

 

「幼少期のエピソードで描いていないことがまだまだたくさんあるんです。まずはそれらを描き切りたい。そして、そんな体験をした少女がどんな大人になったのか、いつかはそれも描きたいと思っています」

本作を通していしいさんが描きたかったのは、宗教を断罪することではない。彼女が訴えかけたいのは、「子どもに選択をさせる」「自由を尊重する」ということだ。それはなにも宗教に限った話ではないだろう。たとえば、子どもの将来もそう。家柄や体面を気にして、それを勝手に決めてしまう親は少なくない。けれど、それで果たして本当に幸せになれるのか。幸せというものは、子どもが自ら取捨選択していくことではないだろうか。

 

本作では、「宗教」というフィルターを通し、親のエゴや子どもの自由について描いている。そして、それは誰もが本作の主人公やその母親になり得ることを示唆している。そう、本作の物語は決して他人事ではないのだ。

 

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(いしいさや/講談社)

 

取材・文=五十嵐 大

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