【ヘンなアニメ会社・タツノコプロの秘密】ハクション大魔王が50年間も愛されている理由

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タツノコプロを誕生から現在までを見守り続ける笹川ひろし氏が、ささやきレポーターとなってその草創期を語るのがこの連載「ヘンなアニメ会社・タツノコプロの秘密」だ。これまでも『宇宙エース』や『マッハGoGoGo』、『紅三四郎』と、いまも歴史に残る作品を紹介してきた。1969年から70年までテレビ放送された『ハクション大魔王』も、そんな傑作のひとつだ。

 

クシャミをすると魔法の壺から現れて、呼び出した者の願いを叶える大魔王。ところが壺の持ち主の小学生・カンちゃんの無理な命令に、ドジな大魔王はいつも事件を巻き起こす。そんなドタバタギャグコメディが、子どもから大人まて゛幅広い人気となった。人気の秘密は、クシャミで登場する大魔王という意表を突いたアイディアに、一度見たら忘れられないキャラクターのデザインである。そんなキャラクターたちは、どうやって生まれたのだろうか? ささやきレポーターの報告を聞いてみよう。

 

 

~第八回:温泉の見知らぬおじさんが生みの親!? 『ハクション大魔王』(1969年)~

 

昔、昔、それほどでもない昔・・・タツノコプロ・ギャグアニメ、ハクション大魔王が制作されることになった。前作、紅三四郎で、ど派手なアクション作品に関わっていたS監督が、なんとなーく考えていたアイディアがあったが、社員旅行の温泉でそれが固まった。


温泉に浸かっていると隣の太ったおじさんが、とんでもない大きなクシャミをしたのだ。突然だったのでビックリして湯船から出たがそれと同時に監督の脳裏にビリビリと閃光が走り、なーんとなく考えていたアイディアが閃いた。「これだ!ハクション大魔王だ!」と。


クシャミをすると、魔法の壺から巨人の魔法使いが現れて、クシャミをした人の召使いになるという面白さに、社長(吉田竜夫)も「よし!、これで行こう」と早速キャラクターを描き始めた。完成したキャラクターは、大魔王という名になって怖い顔の、背の高い筋肉モリモリの魔法使いとなった。

 

 

アニメーター達も、「ひやー、こりゃスゲー、プロレスラー並みだ」と、その迫力に目を丸くした。そして、動画の制作が始まり千枚ほど進行した。ところが、まさか!のストップがかかった。

 

余りにも巨人で顔の周りが黒ひげでは、子供達には恐ろし過ぎると
放送関係者からのクレームがついたのだ。「もっと楽しい魔王になりませんか?」と。・・・「ええー、今更そんなー、まさかー」で、スタッフ達はざわめいた。 が・・。

 

千枚の完成してる動画は全部捨てても、今なら小さな損害で済むと判断して、社長はキャラクターを描き直した。モチーフは電球の形を基本とした。そして、新しく出来上がった大魔王は、誰にも好かれる優しい、チョット間抜けな太チョおじさんだった。

 

鼻の下のくるくる巻きのお髭は、愛敬タップリで誰にでも愛されそうだ。こうして動画制作は再び動きだし、ハクション大魔王は完成して、放映が始まりファンの人達に親しまれたのだ。 

ささやきレポーターの「ファファファックション」特種ルポでした。

 

 

■アイディア満載、子どもたちが誰も知っていた「アラビン・ドビン・ハゲチャビン」

 

『ハクション大魔王』のストーリーは、カンちゃんが自宅の屋根裏で魔法の壺を見つけたことで始まる。壺の前で大きなクシャミをするとハクション大魔王と名乗る魔人が飛び出して、呼び出した者の願いをなんでも叶える。ところが大魔王の実力はいまひとつ。願いごとは何をやっても失敗続き。さらにあくびをすると大魔王の娘・アクビまでが壺から飛び出して、イタズラを繰り広げる。1960年末から70年代を代表するギャグコメディだ。

 

総監督は、ささやきレポーターこと笹川ひろし自身が務めている。報告にもあったように、笹川ひろしが閃いたアイディアが本作のクリエテイティブに大きな役割を果たした。願いを叶える魔人がランプから現れるのは、アラビアンナイトの「アラジンと魔法のランプ」に由来するが、そこにクシャミとアクビを絡ませる絶妙なアイディアで作品のキモとなっている。しかしタツノコプロらしいアイディアはこれだけにとどまらない。


たとえば大魔王が大好きなハンバーグ。高度成長期を突き進む当時の日本の子どもたちにとっては、どこか夢を持ったメニューだった。そこから大魔王への共感が生まれる。


そしてなんといって極めつけは、一度聴いたら忘れられないセリフや呪文の数々だ。大魔王が魔法をかける時に唱える「アラビン・ドビン・ハゲチャビン」は、当時の子どもたちであれば誰でも知っていただろう。そして「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」、「出まして来ましてアクビちゃ~ん」など、次々に飛び出す独特な言い回しが、作品の楽しさを引き立てる。

 

 

 

■キャラクター人気で50年の「ハクション大魔王」

 

放送開始が1969年だから、『ハクション大魔王』の誕生はいまから50年も前になる。さらにその年月にも関わらず、多くの人気キャラクターを抱えるタツノコプロのなかでも、その知名度はトップクラスだ。誰もが知っている『ハクション大魔王』だが、実はアニメ作品の展開はそれほど多くない。30分全52話の当初のテレビシリーズのほかは、大きなリメイクや新たなテレビシリーズは制作されていないのだ。それは『マッハGoGoGo』や『科学忍者隊ガッチャマン』、『タイムボカン』など異なるところだ。
 

 

では『ハクション大魔王』の人気は一体どこで築かれたのだろうか。ひとつは他の初期作品と同様で、たびたび再放送が繰り返されたことだ。初放送の時期を考えると世代でないはずなのに、なぜかよく知っているという人も多いかもしれない。

 

 

 

■アクビちゃんの人気に、吉田すずかも大活躍

 

いっぽう『ハクション大魔王』に代わり、アニメで活躍したのはアクビちゃんだ。本編からスピンオフして、アクビちゃん自身が主人公となったテレビシリーズ2作品『よばれてとびでて!アクビちゃん』(2006)、『アクビガール』(2012)が制作されている。

 

さらにこの4月にはアクビちゃんが登場する最新作『パンドラとアクビ』が劇場公開されている。人気アプリゲーム『モンスターストライク』のパンドラとアクビちゃんが世界を滅ぼす力を持つといわれる“災いの欠片”を探すため大冒険を繰り広げる。作品やジャンルを超えた奇想天外のストーリーである。

 

 

映画『パンドラとアクビ』

■キャスト・パンドラ:小倉 唯、アクビ:天城 サリーほか ■スタッフ・原作:XFLAG・タツノコプロ 監督:曽我 準 ■キャラクターデザイン・総作画監督:大倉 啓右  ■主題歌・Shiggy Jr.「D.A.Y.S.」(ビクターエンタテインメント) ■アニメーション制作・BAKKEN RECORD  ■配給・角川 ANIMATION  ■製作・XFLAG 『パンドラとアクビ』 公式サイト https://dora-bi.com 『パンドラとアクビ』公式 @anime_dorabi (C)XFLAG (C)タツノコプロ

 

これも『ハクション大魔王』の時代を超えるクリエイティブ、キャラクターが理由とみていいだろう。そのアクビちゃんの2000年代になってからの活躍を後押ししたのが、吉田竜夫の長女でもある吉田すずかだ。竜夫譲りの抜群のセンスで、『よばれてとびでて!アクビちゃん』のキャラクターデザイナー、『アクビガール』のキャラクターデザインを担当し、魅力あるキャラクターを見事に現代にリファイン。更に『パンドラとアクビ』では、エンディングのイラストを担当している。新しい時代と融合することで、タツノコプロの作品は時代を超えて活躍する。『ハクション大魔王』とそのキャラクターたちは、今後も長く愛されそうだ。

 

タツノコプロの生みだした傑作はまだまだたっぷり。次回も引き続き、いまも人気の数々作品を紹介します。ささやきレポーターのエッセイを楽しみにしてください!

 

 

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アニメジャーナリスト

数土直志

ジャーナリスト。国内外のアニメーション関する取材・報道・執筆を行う。また国内のアニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など...

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