ただ「この人が好き」というだけなのに… 自分の気持ちを自分で認められない苦悩【昏いものを抱えた人たち】

人間関係

ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗うため、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。

異性が好き、同性が好きとわかっている人が大半だろうが、中には「どちらも好き」という人もいる。そしてそれをカミングアウトすることはもちろん、自分でも認めたくないという。認められないがゆえに自分も人も傷つけてしまうことがあるそうだ。

 

 

■ただ「この人が好き」というだけなのに

 

ミカコさん(36歳)が、自分は女性が好きだと感じたのは高校時代。大好きな親友に、「好き」という感情を抱いている自分に気づいた。

 

「その後、大学に入ってからも彼女への思いが断ちがたく、ついに告白したんです。そうしたら彼女が『なにそれ、気持ち悪い』って。傷つきました。今ほど社会的な理解もなかったから、しかたがないのかもしれないけど。それ以来、同性への思いは秘めていなければいけないものだと思ったんです」

 

学生時代は男性から告白されてつきあったこともある。その彼のことは心から好きだったそうだ。

 

「あれ、と自分でもこんがらがってしまったんですよね。女性にも男性にも、同じように恋愛感情を抱く自分って何だろう、と」

 

LGBTについて勉強をしはじめた。知識が増えれば気は楽になる。ただ、日常生活ではやはり生きづらさを覚えた。

 

「同性愛者の集まりに行ったとき、バイセクシャルだと白状したら『いいとこ取りしてるんじゃない?』と言われて。それもまた傷つきました。私は人を傷つけ、自分も傷つけながら生きていくしかないのかと悩みました」

 

恋愛を封印していれば、「明るくて楽しい人」と友だちが増えていく。だが、自分の心を吐露できる存在はいなかった。

 

 

■自分を自分で認めることができない

 

社会人になって数年たったころ、ときどき行くバーで年上のステキな女性に出会った。彼女と親しくなって話すうち、ミカコさんは自分のことを打ち明けるようになっていった。

 

「彼女は同性愛者だったんです。私もそうだと思って話すようになったのだと。でもバイセクシャルならバイセクシャルでいいじゃないと言ってくれました。『でも私はバイの人とはつきあえない』とも。うーん、やっぱり私の存在って誰からも受け入れてもらえないのかと悲しかったですね」

 

彼女は浮気者なわけではない。ただ、恋愛対象者が男であったり女であったりするだけだ。それなのに「どちらも好きな浮気者」というくくられ方をしがちである。

 

少し大人になった今は、バイであることを誰にも言わないようになった。

 

「男性を好きになったら異性愛者のフリをする。同性を好きになったら同性愛者のフリをする。本当はシンプルに、私は今、この人が好きなだけだと思っているけれど、それは世の中的には受け入れられない。それなら言う必要もない。そんな感じです。それでもやはり嘘をつきながら生きているようで、すっきりしない。私って何ものなのかという答えも出ない。バイの人と友だちになったことはありますが、同じバイでも考え方はいろいろで、なかなか心安まらないですね」

 

彼女の知り合いのバイセクシャルは、「世の中の偏見を闘っていく」と言っているが、彼女自身は「何と闘っていいのかわからない」と言う。好きな人に本当の自分を受け入れてもらいたい。それが彼女の心からの願いなのかもしれない。

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ノンフィクションライター

亀山早苗

明治大学文学部演劇学専攻卒業後(専攻は歌舞伎)、雑誌のフリーランスライターに。 ライター歴、もうじき30年。離婚歴1回の現在独身。長い間、男女関係に興味を持ち続け、さまざまな立場の男女に取材を重ねてきまし...

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