クレプトマニア 恐怖の依存症

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大きな社会問題となっている違法薬物。その行為はもちろん犯罪だが、一方でやめようと思ってもなかなか止められない強い依存に陥るとされている。そして実は、薬物以外にも犯罪でありながら、なかなか止められないという恐ろしい依存症がある。


神奈川県に住むNさん。彼女が止められないもの、それは……万引き。お金に困っている訳でもないという彼女が繰り返してしまう万引き。一体、彼女に何があったのか?
 

 

■きっかけはダイエットだった

 

神奈川県で生まれ育ったNさん。彼女は、生徒会の仕事もこなす優等生。真面目で曲がった事など大嫌いな性格だった。


両親はNさんが生まれてすぐに離婚。女手一つで育ててくれていた母に負担をかけたくないと高校卒業後は進学せず、仕事につき、都内で一人暮らしを始めた。


ところがその頃から同僚のスタイルの良さが気になるようになっていった。自分も、同じように痩せたい。そう思ったNさんは食事制限を始める。朝は野菜ジュース、昼食は抜いた。


家に帰っても口にするのは豆腐や果物のみ。みるみると体重は減っていく。痩せる度、周りの評価も上がる。それが嬉しかった。


やがて食べるのはほとんど、グレープフルーツのみとなった。その反動で食べ物に対する欲求は異常なまでに高まっていく。

 

 

食べたくても食べてはいけない。そんな生活が続いたある日、グレープフルーツを買いにスーパーへ行くと、極度の空腹状態からレジに並ぶのさえ待ちきれず、生まれて初めて万引きをした。


迷った挙句、この時は自ら店員に申告。この時は自ら返したため問題にならなかった。

 


■万引きを繰り返し通報される

 

この頃からNさんの食生活にある変化が……大量に食べるとトイレで吐く。過食嘔吐だった。太るのが嫌だったNさんは食べては吐くを繰り返していた。Nさんの場合、限界まで食べなければ吐くことができなかった。そのため、大量の食品が必要になり食費はかさむ一方。


そんなある日。どうせ吐くだけなのにもったいない。吐くだけのものを買う気になれず、ついに自らの意思で万引きをしてしまった。バレてしまうのでは……そう思うと気が気でない。


その緊張から解放されたのは家に帰った時だった。全身の力が抜けるほどの脱力感と安心感。だが翌日、万引きをしたその罪悪感が頭から離れなかった。


一方で、ますます「もったいない」という気持ちが大きくなっていく。太らないよう吐き続けるには食品がいる……いけない事だとはわかっていたが、こうしてNさんは万引きを繰り返していった。


万引きを始めて1年半、Nさんは食べ物のほとんどを万引きで手に入れるようになっていた。そして23歳のとき、万引きを専門に見張る「万引きGメン」に見つかってしまった。

 

 

すぐに警察にも通報されたNさんは捕まって初めて自分の犯した罪の重さを知った。そしてもう二度としないと本気で心に誓った。 

 

 

■「盗りたい」という欲求が止められない

 

幸い職場に万引きのことは知られることもなく仕事も順調。上司からの信頼も厚く、評価は上がる一方。ところがNさんはある不思議な衝動に駆られるようになっていた。


 「盗りたい……」。仕事が忙しくなればなるほど高まるその欲求。


二度としない……そう誓ったはずの万引き。そもそも、一つ数百円ほどの商品なんて買えないわけでもない。捕まることを思うと、どう考えても割に合わない犯行だったがそれでもやらずにはいられなかった。


結局、Nさんは半年も経たずに万引きを再開する。すぐに冷蔵庫は食品であふれ返った。自分の行動に激しい自己嫌悪に陥る毎日。Nさんを追い詰めていたもの、それは窃盗症という精神疾患だった。


盗む必要のないものを「盗みたい」という衝動を抑えきれない。善悪の判断はつくのに盗むことをやめられない。クレプトマニア、病的窃盗といわれる精神疾患の一種で、利益追求、経済的動機ではなく、おもに盗みたいという衝動から犯行を繰り返してしまう症状。


組織的、計画的に行われることは少なく、女性に多いとも言われている。万引きをする時の極度の緊張感と、成功し緊張が解き放たれる際に得られる満足感や解放感などが再犯の原因とされる。


28歳で系列店のエリアマネジャーに昇進した彼女はまわりからも羨ましがられる存在に。しかしその裏でエスカレートする万引き行為。


そんな中、母がガンを患い入院した。女手一つで育ててくれた母……母を悲しませるわけにはいかない。病院に行くたびに「やってはいけない」と思ってはいた。しかし、Nさんはやめることができなかった。そして再び発覚してしまった。

 

 

次は警察に連行され、常習犯として取調べを受けることに。母親にも迷惑をかけてしまった。この時Nさんは不起訴となったが、それからまもなく母は亡くなった。


自分を変えなければと母に誓ったNさんだったが、窃盗症は、Nさんの心を深くむしばんでいた。万引きをやめられない。


ついにNさんは、万引きの常習犯として逮捕され起訴された。裁判の結果は、懲役1年・執行猶予3年の判決だった。

 

 

■家族に支えられながら病と闘う日々

 

その後、Nさんは結婚し大事な1人娘も生まれた。万引きの衝動は消えていた。"新たな人生のスタート"と本人も思っていたが、ある時に再び自分のスタイルが気になってしまった。そして過食嘔吐の症状。


そんなある日、スーパーであるものが目にとまった。それは、以前万引きをしたことのある商品。次の瞬間、脳によみがえったのは、あの時の感覚。夫も娘も、今の幸せな暮らしも、全て失うかもしれない。


それでもNさんは中毒患者のように万引きを繰り返してしまった。そして逮捕。幸せな家庭や、今まで必死に守ってきたものが崩れた。


そんな中、心の病気が原因ではないかと指摘した友人がいた。すぐに調べてみると、「窃盗症」を知ることになる。そしてその症状はまさに自分の症状そのままだった。

 

 

こうして、Nさんは赤城高原ホスピタルへ。その病院で彼女は初めて自分と同じく万引きをやめられない症状に苦しんでいる人が多くいることを知った。


そして治療によって万引き衝動を抑えられるようになった患者もいるということも。夫も治療に協力してくれ、二度と万引きをしないよう買った物とレシートを全て照らし合わせるように。さらに、買い物は出来るだけ家族一緒に。万引きをしないよう努力している。


一度癖になると抜け出せなくなる窃盗症。赤城高原ホスピタルとその系列診療所では、これまでに1400人以上の常習窃盗者の診療をしてきた。


竹村医師はこの病について、『病気だから犯罪ではないと言ってるわけではなく、やっていることの1つ1つは犯罪。しかしその犯罪を繰り返す人の中には、かなり病的な心性が関係していて、その原因を解決しないといくら罰しても悪循環になってしまうということがあるのできちんとした治療が必要』と語っている。(2016年3月30日放送)

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