ドライバーの不注意が生む右直事故はなぜ減らない?

車・交通

田中 宏亮

 

■ライダーは自殺志願者じゃありません

 

先日の免許更新時に受けた安全運転講習に出た「右折直進事故」、いわゆる「右直事故」(うちょくじこ)のデータと談話が、ライダーでありドライバーでもある私が常に感じ入っている内容でした。

 

●東京都内における対クルマでの二輪車事故類型別死亡者数 (警視庁調べ)
・右直事故:9人
・追突:9人
・出会い頭:7人
・その他:3人
・追抜追越時:2人
(平成26年中)

 

右直事故でもっとも多い原因が、「右折待ちドライバーの錯覚」と言われています。つまり、想定以上のスピードで接近してきたバイクに対応できなかったのです。そのことを示す逸話が、この講習のなかで出ました。そう、右直事故を起こしたドライバーの第一声は決まって、「バイクが突っ込んできた」だと言うのです。

 

あのね……加速してクルマに突っ込むライダーなんて、いるはずがありません。お分かりのとおり、ライダーは体が剥き出しの状態で走っています。外壁に守られているクルマと違って、事故に遭えば即人体。その怖さを誰よりも分かっているのはライダーです。交差点手前からスピードアップして右折待ちのクルマに突っ込むライダーがいたら、頭のネジが飛んでいる自殺志願者に他なりません。ええ、もちろんそんなライダー、この世にいませんから。

 

クルマとバイク、両方を操る者としてひとつ言えるのは、それはバイクの速度域がクルマより上であるということです。理由はカンタン、四つの車輪で安定しているクルマと違い、バイクはふたつの車輪のみで支えられており、クルマよりも速い速度域でないと安定して走れないからです。

 

バイクの接近はクルマよりも早い。自動車教習所でも習ったはずなのですが、どうして失念する人が多いのでしょう。

 

 

■ライダー視点で見た右直事故

 

まず、ライダー側の視点でこの右直事故の発生原因を見ていきます。バイクで走っている際の、右折待ちのクルマが並ぶ交差点ほど怖いものはありません。「え? どうしてそこで飛び込むの?」というタイミングで交差点に侵入しようとするクルマの多いこと多いこと。実際に事故に遭われた方はもちろん、紙一重で事故を免れつつもキモを冷やされた方は少なくないでしょう。私自身もそういう経験をしたのは一度や二度ではありません。

 

見極めが甘いのです。

 

私もクルマを運転する身なので、見極めが甘いドライバーには「このタイミングならギリギリ間に合うだろう」という心理状況が働いていることぐらい察しがつきます。結果、予想以上のタイミングでバイクが接近してきてパニックブレーキを起こし、意味不明な場所で停まる輩が多いです。

 

ライダーとしては、我が身を守るのが最優先。なので、私の場合はバイクを運転している際、右折待ちのクルマが並ぶ交差点が見えたら、クルマとは接触しないポイントで停止できる速度まで減速します。

 

相手ドライバーを信用していないからです。

 

相手が期待どおりの動きをしてくれると思ったら、大間違い。それは、「このタイミングなら間に合うだろう」という見極めの甘いドライバーと同じ心理状況。“使い方次第でクルマは人を殺せる凶器になる”ということへの理解度の低さ、意識の低さが事故を生みます。被害者になる可能性を少しでも低くするには、自分の身は自分で守るようにせねばなりません。「相手に期待する」というのは不確定要素に他ならないのです。

 

 

■ドライバー視点で見た右直事故

 

一方、ドライバーとして右折待ちの際は、バイク(原付含む)が直進してきた際はまず飛び込みません。自分自身がライダーの速度域を知っていることもありますが、右直事故に関して万が一の可能性すら残したくないからです。

 

事故を引き起こした場合、現場検証、その後の示談交渉、通院など煩わしいことが発生するうえ、自分が加害者となった際の被害者への罪悪感まで一生背負っていかねばなりません。「バイクが突っ込んできたんだ!」なんて、自分の過失で事故を引き起こしたことを認めたくないための第一声でしかなく、その後自身の過失が認められた場合のショックたるや、想像に難くありません。

 

ほんの一瞬の不注意が、取り返しのつかない事故を引き起こすことぐらい、現代社会に生きる人なら誰にでも分かること。別に親の死に目に間に合うかどうかの瀬戸際でクルマを運転しているわけでもないのですから、右折待ちのタイミングを一度逃すぐらい、どうってことありません。

 

見極めが甘いというのは、右折のタイミングを逸することとその後の事故対応諸々という両者を天秤にかけること自体がナンセンスで、「そのふたつを天秤にかけちゃダメでしょ」という意味も含めています。

 

2015年6月に道路交通法が改正され、一部の規制が強まったことは皆さんも記憶に新しいところかと思います。「なんでもかんでも規制を強めればいいというものではないだろう」と思う一方で、ここ数年、街を走っているとドライビング技術が全体的に低下しているように思えてなりません。いろんな意味で車内空間が快適になって緊張感が弛緩しているなど、理由は多々あるかと思いますが、それでもクルマは個人のプライベート空間である一方、人を殺せる凶器でもあるのです。

 

この弛緩した空気が広まり、交通事故が増えていけば、結果的に交通規制が強められるということに繋がるでしょう。そんな環境でクルマやバイクを趣味として楽しむことができるかどうか……。講習後、そんなことを考えているとなんとも切ない気分になりました。

 

※情報は2016年3月24日現在のものです

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田中 宏亮

ハーレーダビッドソン専門ウェブサイトの編集長経験を持つフリーライター。海外メーカー系モーターサイクルでの新しいライフスタイルの楽しみ方を提案する。モーターサイクルのインプレッションのほか、カスタムやフ...

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