ユニクロ初任給「大幅アップ」で見えて“しまう”いろいろな矛盾

ビジネス

 

ユニクロの運営会社であるファーストリテイリングが、2020年に入社する新入社員の初任給を2割引き上げるとの記事がありました。海外人材の採用を進める中で、日本の平均的な給与水準では、優秀な人材を集められないというのが理由だそうです。

 

この記事を見て、私のように古くから人事の仕事に関わっている者は、すぐ「賃金カーブの設定をどう変えるのだろう」などと思うのです。昔ながらの年功賃金の発想では、全体の基準になる初任給を上げれば、全社員の給与水準に波及するので、「中高年の給与を削って原資を作るのか」とか、「その後の昇給率を抑えて調整するのだろうか」という見方をしてしまいます。

 

最近は年齢や社歴などでなく、職務内容や成果によって給与を決める会社が増えていますが、「能力」「職務」「成果」「貢献度」などといいながらも、実質的には年功要素を多く含んだ給与で運用している会社は、まだまだ多いというのが現実です。

 

著名な大手企業が、自ら「給与体系を大きく変えて年功制を廃した」などと発表することがありますが、中身をよく見ると、確かに自社としては大きく変えたのだろうとは思うものの、客観的にはまだまだ年功制が残っていることも多いのです。

 

日本企業の年功序列はそれほど深く浸透していて、変えるには時間がかかるということが、日本の賃金競争力が急速に低下している原因のひとつと言えるでしょう。

 

 

■説明しづらい「初任給アップ」の理由

                                   

ファーストリテイリングの給与体系を調べてみると、仕事内容によって給与の範囲が決まっているジョブグレード制(年齢でなく、仕事内容や役割のレベルで給与が決まる)のようで、グレード毎の年収テーブルも公開されていました。こういった制度であれば、多少の社内調整はあるにしても、初任給アップが全体に影響する度合いは少なそうです。

 

ただ、仕事内容で給与を決める制度なのに、「グローバルな給与水準」や「他社との比較」といった給与相場を初任給アップの理由にしてしまうと、いろいろな矛盾が生じてきます。

 

ジョブグレードのような給与制度では、基本的にはその人の仕事の難易度や責任が増すことがなければ昇給しません。ときには「会社利益の還元」など、仕事内容に関係しない理由で昇給することはありますが、あくまで自社だけの独自の事情によるものです。

 

特に新入社員のような業務未経験者の場合、その仕事内容がある年から急に難しくなったりすることは、普通はありませんから、スタート時点の給与が大幅に変わることへの説明がしづらくなります。

 

今回は、「給与水準をグローバルな相場価格に近づけること」を引き上げ理由にしていますが、それを裏返して考えると、「今までは仕事内容の割に安い給料でした」と宣言しているようなものです。

 

社内事情の詳細はわかりませんが、前年の新入社員からすれば、仮に納得はしたとしても、あまり気分が良いものではありません。そもそも会社が導入している制度の趣旨からすると、この昇給理由が整合しているとは言えません。

 

実はこの「給与相場」による説明は、終身雇用や年功序列の制度の中では、当たり前に行われてきたことです。年齢というのは、全産業全職種で共通の指標となり、これで給与が決まるとなれば、同業他社の状況や世間相場を見て判断しなければなりません。春闘などで一斉の賃上げ交渉が行われるのも、これに合致していました。

 

しかし、仕事内容で給与が決まるとなると、そのレベル感や具体的な内容は会社によってまったく違うので、給与設定の判断は会社独自のものとなります。給与を上げるにしても下げるにしても、自社の業績や仕事内容以外の、相場や他社事情といった理由への納得性は薄れてきます。

 

 

■大卒初任給が40万以上の会社?

 

以前、中国系IT企業の日本法人が、大卒初任給を40万円以上で提示して話題になったことがありました。競合他社の状況は当然意識しているでしょうが、それを給与額の根拠にはしていません。新入社員に求める仕事内容にそれだけの価値を認めているということであり、それだけの支払い能力があったということでしょう。相場ではなく、あくまで自己決定した給与水準なのです。

 

また、これはもう20年以上前ですが、国内のある企業が、当時の相場よりも3割以上高い初任給を設定して、学生を集めていたことがあります。その会社では、30歳を超えると急に昇給が抑えられ、職場環境や仕事内容が魅力的なものとは言えない上に一方的な上意下達も多かったことから、新入社員はほとんど定着せずに、結果的には倒産してしまいました。やはり給料だけの話で、しかもそれがある時期だけに限ったものでは、企業価値は高まらないということです。

 

グローバルな視点では、日本企業は給与が安いと認識されているそうですが、こればかりは個々の企業が生産性を高めて利益を上げない限り対応できませんし、横並び意識のみでは立ち行かなくなることが目に見えています。また、給与額は当然大事ですが、仕事内容や職場環境も同じように大事です。これらすべてを含めた総合的な企業価値が上がらなければ、優秀な人材は集まりません。

 

今回の初任給アップは、理由づけに矛盾はあったとしても、これまでの横並び意識を打破するには、必要なプロセスだと思います。ここで見えてきたような矛盾が消えるときが、日本企業の競争力が本当に復活するときではないでしょうか。

 

※情報は2019年5月14日時点のものです

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小笠原隆夫

IT業界出身で現場のシステムエンジニアの経験も持つ人事コンサルタントです。 人事課題を抱え、社内ノウハウだけでは不足してその解決が難しい企業、100名以下から1000名超の企業まで幅広く、人事制度構築、...

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