ショック! 50歳の夫が突然本屋で万引き──もしかしてアノ病気の兆候かも?

ヘルス・ビューティー

 

「先生! 夫が本屋で万引きしようとしている瞬間を目撃してしまいました…」

 

先日、50歳の夫を持つ47歳の主婦・律子さん(仮名)から、こんな相談を受けました。幸いなことに、夫が支払いも済ませずバッグに潜めた文庫本を急いで律子さんが元の棚へと返したので、大ごとには至りませんでしたが、彼は悪びれる様子もなく「なんで勝手に戻すんだ!」と逆ギレしてしまったとのこと。

 

これは、40〜50代の働き盛りに言動や趣味嗜好が劇的に変化して、万引きなどの反社会的行為を犯してしまう病気「ピック病」の症状である可能性があります。その頻度は、統計によってばらつきがありますが、アルツハイマー病のおおよそ3分の1〜4分の1くらいであろうと推測されており、男女差はありません。

 

ピック病の初期症状は、アルツハイマー病によくある「物忘れ」よりも先に、「性格変化」や「人格障害」が現れるのが特徴です。人間の情動をコントロールしている前頭葉の力が衰えてしまっても、記憶の中枢の海馬は比較的保たれているからだと考えられています。

 

症状の進行に伴って自制力が低下するので、3ヶ月から1年ほどの時間をかけて、

 

・  相手の話を聞かず一方的に話し続ける

・  ゴミを収集するなどの異常行動を取る

・  整理整頓が下手になり、捜し物が探せなくなる

 

……といった症状が多く見られます。

 

 

■  ピック病が疑われる10の症状

 

もし、ピック病が疑われるならば、群馬県『こころの健康センター』の宮永和夫所長(元群馬大学医学部神経精神医学教室)が作成した、次の「ピック病チェックリスト」を試してみましょう。

 

1.状況に適さない行動

場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや配慮を欠いた身勝手な行動をする。

 

2.自発性低下・意欲低下

引きこもりや何もしない…などの状態が持続し、本人にはその自覚がなく、改善しようともしない。

 

3.無関心・無行動

自己の衛生や整容に無関心になり、不潔になっていく。

 

4.逸脱行為

万引きなどの軽犯罪を犯す。しかし、自分が行った違法行為の意味を理解できず、反省したり説明したりができない。

 

5.時刻表的行動

日常生活のいろんな行動(散歩・食事・入浴など)を、時刻表のように毎日決まった時間に行う。それをやめさせたりすると怒る。

 

6.食べ物へのこだわり

毎日同じもの(とくに甘いもの)しか食べない。それを制限なく食べ続けることもある。

 

7.常同言語・反響言語

同じ言葉を延々繰り返したり、他人が言った言葉をオウム返しする。

 

8.嗜好の変化

食べ物の嗜好が大きく変わる。アルコールや煙草を毎日大量に摂取することも。

 

9.発語障害・意味障害

無口になったり、語彙(ごい)が少なくなる。重度になれば、たとえば「はさみ」などの品物を見せて尋ねても、その言葉の意味や使い方がわからなくなる。

 

10.短期記憶の維持

最近の出来事など、短期的な記憶は保たれている。日時も間違えず、外出時には道にも迷わない。

 

以上をチェックし、40〜79歳の範囲内で3項目以上当てはまる場合は、精神科・神経内科・脳神経外科を受診してみてください。

 

ピック病の診断は原則として“問診”です。ご家族の方は日常生活の様子を書き留めたメモを持参すると良いでしょう。残念ながら、ピックを治療する特効薬はありません。したがって、ピック病の症状をなるべく抑える薬の投与が中心となります。たとえば、日中に落ち着きがなければ安定剤を使用したり、不眠が続くなら睡眠導入剤を使用する……などです。

 

そして、なによりもピック病の患者さんに有効なのは、生活のリズムや環境を整えてあげること。介護者の目が届く範囲で、普通に生活をさせてあげることがポイントです。介護の負担が大きくなるようであれば、介護保険を申請し、デイサービスやデイケア、ヘルパーなどを利用しましょう。

 

介護保険は、主治医に相談した上で、市区町村にある介護保険担当の窓口で申請することになります(※この申請を行うためにも、病院の受診は重要なのです)。その後は担当のケアマネージャーさんとよく相談し、本人の症状に応じたケアプランを立ててみてください。

 

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脳神経外科医

菅原 道仁

All About「家庭の医学」ガイド。現役脳神経外科医。脳血管障害を中心に、救急医療からリハビリテーション、予防医療までの現場経験を元に、くも膜下出血・脳梗塞・認知症などに代表される脳・神経の病気について、...

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