急転直下ホンダF1のドライバーとなった「タイのラッキーボーイ」アルボンの正体

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ホンダのパワーユニットを搭載した車両でF1に参戦するアストンマーティン・レッドブル・レーシングは8月12日、9月1日に決勝レースが行われる第13戦ベルギーGPから、ピエール・ガスリーに替わって、レッドブル・トロロッソ・ホンダに所属するアレクサンダー・アルボンを起用すると発表した。アルボンはマックス・フェルスタッペンと組み、2019年シーズンの残りの9戦をレッドブル・レーシングで過ごすことになる。


エナジードリンクメーカーのレッドブルは、F1に2つのチームを抱えている。ひとつはレッドブル・レーシングで、もうひとつはトロロッソ(イタリア語のToro Rossoは、英語でRed Bullの意味)だ。レッドブルの本拠地はオーストリアにあるが、レッドブル・レーシングの本拠地はイギリス、トロロッソはイタリアにある。

 

 

レッドブル・レーシングが1軍で、トロロッソが2軍の位置づけだ。レッドブルはふたつのチームが抱える4人のドライバーを自由に入れ替えられる権限を持っている。1軍のレッドブル・レーシングで期待通りの成績を残すことができなかった場合は、シーズン途中であろうが2軍のドライバーと入れ替えるというわけだ。


18年にトロロッソからF1デビューを果たしたガスリーは、成長が認められて19年に1軍であるレッドブル入りを果たした。だが、レッドブル入りした途端、勢いは影を潜めてしまった。第12戦終了時点でフェルスタッペンが2勝を含む5回の表彰台を獲得している一方、ガスリーは表彰台ゼロ。第10戦イギリスGPの4位が最高位である。フェルスタッペンは12戦すべてで入賞しているばかりか、全レースで5位以内の成績を残しているのに対し、ガスリーは無得点のレースが3回ある。


これまでの獲得ポイントは、フェルスタッペンの181点(ランキング3位)に対し、ガスリーは3分の1の63点(ランキング6位)である。移籍1年目であることを考えても、レッドブルとしてはアクションを起こさずにいられなかったのだろう。

 

 

■アルボンにホレたレッドブルが話をひっくり返した

 

 

ガスリーの走りが低調で推移したために、レッドブルの支配下にあるアルボンにお鉢が回ってきたというわけだ。そのアルボンはイギリス人の父とタイ人の母を持つ。イギリス・ロンドンの生まれでイギリス育ち。イギリスのほかにタイの国籍も持ち、F1にはタイ国籍のドライバーとしてエントリーしている。タイ国籍のF1ドライバーは、1950年から54年にかけて、マセラティなどで活躍したプリンス・ビラ(Prince Bira)以来である。


1996年生まれのアルボンはレース経験のある父の影響で05年からカートを始めると、2011年までにイギリス国内外のレースや選手権で腕を磨き、2012年にフォーミュラ・ルノー2.0にステップアップ。2015年にヨーロピアンF3に参戦すると、2016年にGP3にステップアップし、シーズン4勝を挙げてシリーズランキング2位の好成績を残した。


2017年はF1直下のF2にステップアップ。年間10位でシーズンを終えると、2018年は4勝を挙げ、年間3位となった。チャンピオンになったのはチームメイトのシャルル・ルクレール(現フェラーリ)だったが、勝利数ではアルボンが上回った。


2018年8月、ニッサンe.damsは2018-2019年シーズンから参戦するフォーミュラEのドライバーに、セバスチャン・ブエミとアルボンを起用すると発表した。ところが同年11月、トロロッソがアルボンとの契約を発表。フォーミュラE参戦から一転、F1デビューを果たすことになった。アルボンの才能を買ったレッドブルが、いったんは決まった話をひっくり返したのだ。


F1は現役ドライバーの数字と重複しない限り、希望するカーナンバーを選択できる。アルボンが選んだ数字はニッサンとも読める「23」。日産への気兼ね? と考えたくなるが、本人の説明によれば、尊敬するMoto GPライダーのバレンティーノ・ロッシが使う「46」が由来で、「その半分くらいにはなりたい」と、23を選んだのだとか。

 

 

■レッドブルとタイとの知られざる関係

 

 

急転直下F1ドライバーになったアルボンは、第2戦バーレーンGPで9位に入り、F1初入賞を果たすと、第12戦終了時点で入賞を5回記録(ランキング15位)。これまでの最高成績は、第11戦ドイツGPの6位だ。ルーキードライバーとしては十分に及第点を与えられる成績を残している。


ただし、成績だけを見れば、チームメイトのダニエル・クビアトの方が上だ。第11戦ドイツGPではトロロッソに11年ぶりの表彰台(3位)をプレゼントしているし、ポイント獲得数でアルボンを上回る(ランキング9位)。順当に考えればクビアトを1軍に昇格させそうなものだが、選ばれたのはアルボンだった。2020年のレッドブル・レーシングのドライバーラインアップのうち、ひとりはフェルスタッペンですでに確定。レッドブルは、「残り9戦でアルボンのパフォーマンスを確認し、マックスのチームメイトふさわしいドライバーを見極める」とコメントしている。


クビアトはレッドブルで走った経験がある。2015年にトロロッソからレッドブルに昇格したのだが、16年シーズン序盤でレッドブル上層部に見限られ、トロロッソに降格させられたのである(クビアトに替わってレッドブルに昇格したのが、フェルスタッペンだ)。クビアトはそのトロロッソからも放出され、2018年はレギュラーシートを失った。今年は2年ぶりにレギュラーシートを得、一度は失った信頼を取り戻すべく奮闘中というわけだ。


アルボンにシートを譲るガスリーは、昨年F1デビューイヤーを過ごしたトロロッソに戻ることになるが、彼にもレッドブル復帰のチャンスは残されている。残り9戦で光る走りを見せればいいのだ。


それにしても、F1デビュー13戦目にして、トップチームのひとつであるレッドブル入りを果たしたアルボンのラッキーボーイぶりが際立つ。レッドブルはもともとタイで販売されていた清涼飲料水が元になっており、その清涼飲料水を販売していたタイ人実業家とオーストリアの起業家が共同で創業した会社だ。表には出てこないが、現在でもタイとの結びつきは強い。アルボンのサプライズ移籍はそんな裏事情も影響しているのだろうか。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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